企業が勝てるサプライチェーンを構築し、無駄のない物流施設計画を策定するためには、マクロな貨物輸送の動向や地域ごとの貨物流動(域内流動・域外流動)を正確に把握することが不可欠です。
単に「需要地に最も近い場所」や「賃料が安い土地」を選ぶだけでは、稼働後の貨物輸送コスト肥大化やトラックの接車待ち、2024年問題に伴うドライバー確保の困難といった致命的な課題に直面します。
本稿では、過去20年間の国内貨物輸送量の変化、地域ブロックごとの域内流動と域外流動のバランス、アンド全国の主要な流通団地が果たすハブ機能を多角的に分析し、高精度な物流施設計画に落とし込むための実務指針を解説します。
自社の物流施設計画を成功させる第一歩は、日本全体の貨物輸送を取り巻くマクロ環境の変化を正しく洞察することです。
運送事業者の価格競争や企業側の徹底した物流効率化により、売上高に対する物流コスト比率は長らく5%未満〜5%前後で低位安定していました。
トラックドライバーの人手不足深刻化に伴う運賃値上げ、燃料高騰、人件費の上昇を背景に、貨物輸送コストの上昇が本格化しました。
2021年度には5.70%と過去20年で最高比率を記録。近年も5.36%〜5.44%と高水準で推移しており、「2024年問題」対応や物価高により、物流コストの負担感は過去最高レベルに達しています。
製造業の海外移転や製品の軽量化、共同配送の推進により、国内の総貨物輸送重量は2000年代初頭の50億トン規模から40億トン台前半へと緩やかに減少・横ばい傾向が続いています。
BtoBの大量輸送が伸び悩む一方、EC拡大により宅配便の取扱個数は爆発的に増加。総重量は増えずとも「小口多頻度化」が激化し、現場の作業負荷と輸送頻度を押し上げる構造変化が進行しています。
物流施設計画において拠点の配置エリアを決定する際、最も重要な指標となるのが出荷地の「域内流動(ブロック内完結)」と「域外流動(他ブロックへの跨ぎ輸送)」の比率です。
各地域ブロックから出荷される貨物輸送の大部分(約70〜80%)は、同じブロック内で完結する流動(域内流動)です。地産地消型や地域密着型の配送網設計が基本となります。
残りの約2〜3割(域外流動)は、主に「隣接する地域ブロックへの輸送」や「関東・中部・近畿といった大都市圏への集中輸送」で占められています。
1. 三大都市圏への極度な集中(56.6%)
関東(27.8%)・中部(16.1%)・近畿(12.7%)の3ブロックだけで、日本全体の貨物輸送量の過半数(56.6%)を占めています。広域ハブセンターを設置する場合、これら都市圏へのアクセス性に優れた流通団地の選定が必須となります。2. 高い「地域内完結率」(全国平均77.1%)
全国の総貨物輸送量のうち約77.1%は同じブロック内で完結(域内流動)しており、地域ブロックを跨ぐ輸送(域外流動)は全体の約22.9%に過ぎません。特に関東や九州は域内流動の比率が極めて高く、地域内ラストワンマイル網の強化が物流施設計画の肝となります。3. 都道府県別トップは「愛知県」
地域ブロック単位では関東が1位ですが、都道府県単体で見ると、製造業の一大集積地である愛知県が全国1位の貨物輸送量を誇ります。生産物流と販売物流の接点としての中部圏の重要性を示しています。
全国の主要な流通団地(流通業務団地)は、都市部の交通混雑緩和と貨物輸送の集約・効率化を目的に、高速道路のインターチェンジ(IC)、主要幹線道路、港湾・空港に直結する絶好の立地に整備されています。
巨大な消費地と国際インフラを擁する首都圏では、湾岸部と内陸環状線(外環道・圏央道)沿いの流通団地が域内流動と域外流動の中核を成しています。
日本最大級の「京浜トラックターミナル」をはじめ、各種物流倉庫が集積。羽田空港や東京港に隣接し、首都高速湾岸線・羽田線へ直結する日本を代表する総合物流拠点です。
首都高速5号池袋線沿いに位置し、関越自動車道や東北自動車道へのアクセスが容易。首都圏北部への域内流動および関越・東北方面への域外流動の中継拠点です。
東京湾岸道路沿いに位置し、都心部および千葉・茨城方面への配送拠点。葛西トラックターミナルや各種冷食倉庫が高度に集積しています。
東名高速(厚木IC)、新東名、圏央道が交差する結節点。首都圏全域への域内流動に加え、中京・関西圏を結ぶ域外流動の広域ハブとして機能します。
自動車産業が集積し、東名・名神・中央道・新東名が集約する日本の貨物輸送ジャンクションです。
東名・名神の接続点(小牧IC)に近接する「日本最大の物流ジャンクション」。中京圏の域内流動のみならず、東日本と西日本を結ぶ域外流動のクロスドック拠点です。
名古屋港国際コンテナターミナルに直結し、伊勢湾岸道へのアクセスが抜群。輸出入貨物および部品の保管・加工・貨物輸送を担う港湾立地型拠点です。
名神・中国道・阪神高速・近畿道・新名神が網の目のように走り、西日本全域への域外流動をカバーします。
名神(茨木IC)、中国道、近畿道、新名神が集まる関西最大の物流拠点。京阪神都市圏の域内流動と西日本全域への域外流動を一手に引き受けます。
近畿自動車道や阪神高速13号東大阪線に直結し、ものづくり集積地と連携。大阪市内への都市型配送拠点として高い利便性を誇ります。
神戸港、山陽道、中国道、神戸淡路鳴門道を結ぶ結節点。中国・四国地方への域外流動および国際貨物の拠点です。
地方ブロックでは、主要高速道路の十字路(ジャンクション)や大都市圏のインター近傍に広域流通団地が形成されています。
九州道・長崎道・大分道が交差する「九州の物流十字路」。九州全県へ数時間以内で配送可能な立地を生かした一大ハブです。
九州道(福岡IC)や博多港、福岡空港に近い九州最大の流通・卸売団地。都市型域内流動の要です。
道央自動車道(札幌南IC)に直結する北海道最大の拠点。道内各地への広域貨物輸送と札幌都市圏配送を両立します。
東北道、仙台東部道路、仙台港に近く、東北6県を網羅する東北最大のハブ流通団地です。
企業が高度な物流施設計画を推進する際、単独で民間の用地を獲得して拠点を建てるのではなく、行政や開発公社等によって計画的に整備された流通団地(流通業務団地)内に進出・配置することには、極めて大きな構造的・戦略的メリットが存在します。流通団地は、単なる倉庫の集合体にとどまらず、地域経済と広域の貨物輸送網を円滑につなぐ不可欠な社会インフラとして、主に以下の3つの重要役割を果たしています。
流通団地は、高速道路の主要インターチェンジ(IC)や幹線道路、国際港湾、貨物鉄道駅などのアクセスに直結する最高の交通立地に配置されています。これにより、地方や長距離(他ブロック)から運ばれてくる長距離大容量の貨物輸送(域外流動)を一度受け止め、都市内の短距離小口配送(域内流動)へとスムーズにバトンタッチする高度な「クロスドック(積み替え・仕分け)機能」を発揮します。長距離大型トラックと都市内集配車両の動線を結節点で分離・集約することで、車両の空車走行(空車率)を激減させ、ドライバーの拘束時間削減とトータル輸配送コストの最小化を実現します。
大型トラックの路上停車、アイドリングや夜間荷役による騒音・振動、排出ガスといった物流公害から住宅街や都市中心部を守るため、流通団地は都市計画上の「住工分離」原則に基づき郊外沿道や湾岸部に集約整備されています。近隣住民への環境負荷や生活クレームの発生を未然に防止できるため、物流事業者にとっては深夜・早朝のトラック離着車や、24時間365日止まらない連続稼働オペレーションを法的・環境的に安定して確保できるという極めて大きな実務上の強みが生まれます。
流通団地内には、トラックターミナル、営業倉庫、立体自動倉庫、卸売市場、配送センター、流通加工施設が集中して配置されています。この地理的集積効果(アグロメレーション)を生かし、同業種や近隣企業間で「トラックの共同手配」や「荷物の持ち合い(共同配送)」を容易に行うことが可能となります。1台あたりの積載率が劇的に向上することで、慢性的なトラックドライバー不足(2024年問題)への解となるだけでなく、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減する脱炭素・グリーンロジスティクス(GX)の強力な推進基盤として機能します。